失敗するとすぐに「もういい」と手を止めてしまう子がいました。最初はやる気の問題なのかなと思っていましたが、ある問いかけをきっかけに、見え方が少し変わりました。
「失敗するとすぐ諦める」と感じたことはありませんか?
うまくいかないと、すぐにやめてしまう。
もう一度やってみよう、と声をかけても動かない。
そんな姿を見ると、つい「根気がない」「やる気がない」と考えてしまうことがあります。
でも、よく見ていると、その子は「諦めた」というより「固まっている」ように見えました。
何から手をつければいいのか分からず、止まってしまっている感じです。
この記事では、そのときに試した「どこで止まった?」という問いかけと、そこから考えたことを整理してみます。
この記事でわかること
- 「諦める」の手前に「固まる」があるかもしれないという見方
- 最初の一手が分からないときに起きていると考えられること
- プログラミングの「デバッグ」という考え方
- 「どこで止まった?」という問いかけが役に立った理由
- 大人ができる関わり方の手がかりと、注意したいこと
結論
失敗するとすぐ諦めるように見える子は、やる気がないのではなく、「次に何をすればいいか」が見えなくなっているのかもしれません。プログラミングのデバッグ(うまく動かない原因を探して直す作業)のように、失敗全体ではなく「止まった場所」を一緒に探すと、次の一手が見つかりやすくなることがあります。
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ここからは、実際に見た様子をもとに、少しずつ考えを整理していきます。
「諦める」の手前に「固まる」があるのかもしれない
その子は、失敗したあとに怒ったり泣いたりするというより、手が止まって動かなくなる様子でした。
声をかけても、どこから手をつけていいのか分からない、という表情に見えました。
大人から見ると、この「止まった状態」は「諦めた」と同じに見えます。
けれど本人の中では、「やめたい」のではなく「どう動けばいいか分からない」状態なのかもしれません。
この2つは、似ているようで対応が大きく変わります。
「やる気がない」と考えると、励ましたり、もう一度やるように促したりしがちです。
一方で「分からなくて止まっている」と考えると、必要なのは励ましより「次の一手の手がかり」になります。
もちろん、すべての子が同じとは限りません。
ただ、「諦めた」と決める前に「固まっていないかな」と一度見てみるだけでも、関わり方の選択肢が増えると感じました。
はっきり見分けるのは難しいことも多いです。
だからこそ、まずは「止まっているのかもしれない」という前提で、本人の様子をよく見ることが大切だと考えています。
小学生のころの私も、問題が一つ分からないと、その先を全部あきらめてしまう子どもでした。
最初の一手が分からないとき、何が起きているのか
何かを始めるとき、私たちは無意識のうちに「まずこれをやって、次にあれをやる」と順番を組み立てています。
こうした、計画を立てたり、気持ちを切り替えたりする頭の働きは、心理学では「実行機能」と呼ばれています。
アメリカのハーバード大学「子どもの発達センター(Center on the Developing Child)」によると、実行機能は生まれつき完成しているものではなく、経験や周りの関わりの中で少しずつ育っていくと考えられています。
つまり、子どもによって、また場面によって、「最初の一手を自分で見つける力」には差があって当然なのかもしれません。
失敗した直後は、特にこの「組み立て直し」が難しくなります。
さっきまでのやり方がうまくいかなかったのに、次にどうすればいいかはまだ見えない。
地図を持っていたのに、途中で道が分からなくなったような状態です。
そんなとき、「もう一回やってごらん」と言われても、どこからやり直せばいいのかが分からなければ、動けないのは自然なことだと思います。
固まって見えるのは、頭の中で「次の道」を探している途中なのかもしれません。
「どこで止まった?」はデバッグの問いかけ
プログラミングには「デバッグ」という作業があります。
プログラムが思った通りに動かないとき、どこに間違い(バグ)があるのかを探して直すことです。
デバッグでは、「全部だめだった」とは考えません。
「どこまでは思った通りに動いて、どこから違ったのか」を一つずつ確かめていきます。
うまくいかなかった原因を、全体ではなく「場所」として探すのが特徴です。
シーモア・パパートは、子どものプログラミング教育に大きな影響を与えた教育者です。パパートは著書『マインドストーム』(子どもとコンピューターの学びについて書いた本)の中で、間違いを「直すことができるバグ」として捉える考え方を紹介しています。
失敗を「だめだった証拠」ではなく、「直す場所が見つかった手がかり」として見る、という見方です。
その子に「どこで止まった?」と聞いたのは、まさにこのデバッグの考え方でした。
すると、その子は少し考えてから、止まった場所を指さして、もう一度手を動かし始めました。
「全部やり直す」ではなく「ここから」と思えたことで、次の一手が見えたのかもしれません。
私自身も、Webデザインを学び始めたころ、コードが思った通りに表示されないと「全部だめだ」と手が止まっていました。Webデザインの専門校で講師に「どこまでは合っていた?」と聞かれ、一行ずつ確かめるうちに、また手が動くようになりました。
プログラミング教育で育つものについては「プログラミング教育で育つものは?パパートの考えと教室で見た子どもの変化」でくわしく書いています。
問いかけを変えると、何が変わるのか
「どこで止まった?」という問いかけには、いくつかの特徴があると考えています。
- 失敗を小さく分けられる:「全部うまくいかなかった」が「ここまではできた」に変わります
- 評価ではなく観察になる:「なんでできないの?」は責められているように感じやすいですが、「どこで止まった?」は場所を一緒に探す質問です
- 答えやすい:理由を説明するのは難しくても、止まった場所を指さすことならできる場合があります
特に大きいのは、「ここまではできていた」ことに本人が気づける点だと思います。
失敗した直後は、うまくいった部分まで見えなくなりがちです。
止まった場所を探す過程で、「ここまでは合っていた」と確認できると、そこが次の出発点になります。
自転車の練習で転んだとき、「最初から全部やり直し」ではなく「ペダルをこぎ出すところは上手だったね」と区切って考えるのに似ています。
できていた部分が見えると、もう一度試すことへの気の重さが、少し軽くなるのかもしれません。
もちろん、いつも同じようにうまくいくとは限りません。
ただ、問いかけの「向き」を、責める方向から一緒に探す方向へ変えるだけでも、子どもの反応が変わることはあると感じています。
大人ができる関わり方の手がかり
子どもが固まってしまったときに、大人ができそうなことを整理してみます。
1. まず「止まった場所」を一緒に探す
「もう一回やってみよう」の前に、「どこで止まった?」「ここまではどうだった?」と、場所を確認する質問をしてみます。
答えを急がせず、指さしやしぐさでの答えも受け止めることが大切だと考えています。
2. 次の一手を小さくする
止まった場所が分かったら、そこから先を「全部」ではなく「次の一つだけ」にします。
大きな目標の前で固まっている子でも、一歩だけなら動けることがあります。
3. 手伝いすぎない
心理学では、大人が子どもの学びを一時的に支え、少しずつ手を離していく関わりを「足場かけ」と呼びます。
答えをすぐに教えるのではなく、自分で次の一手を見つけられる程度の手がかりを渡すことが、この考え方の中心です。
4. 動けたことを言葉にする
もう一度手が動いたら、「止まった場所を見つけられたね」と、結果ではなく探せたこと自体を言葉にしてみます。
次に固まったとき、自分で「どこで止まったかな」と考えるきっかけになるかもしれません。
声かけの例
- 止まったとき:「どこで止まった?」「ここまではどうだった?」
- もう一度手が動いたとき:「止まった場所を見つけられたね」
注意したいこと
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この問いかけは、どんな場面でも使える万能な方法ではありません。
いくつか気をつけたい点もあると考えています。
- 気持ちが高ぶっているときは待つ:怒っていたり泣いていたりするときは、まず落ち着くことを優先した方がよい場合があります
- 問い詰めにしない:「どこで止まったの?」を何度も繰り返すと、責められているように感じることもあります
- 子どもによって違う:固まる理由は一人ひとり違うと考えられます。うまくいかないときは、別の関わり方を試すことも大切です
今回のことは、あくまで私が見た一つの場面での気づきです。
それでも、「諦めた」と決めつける前に一度立ち止まって考える、というきっかけにはなると感じました。
この記事のまとめ
失敗するとすぐ諦めるように見える子は、やる気がないのではなく、次の一手が見えずに固まっているのかもしれません。
プログラミングのデバッグのように、失敗全体ではなく「どこで止まったか」を一緒に探すと、そこが次の出発点になることがあります。
問いかけを「なんでできないの?」から「どこで止まった?」に変えるだけでも、子どもとの関わり方は少し変わるかもしれません。
完璧な方法を探すより、一緒に「バグ」を探してみる。そんな気持ちで関わってみるのもひとつだと思います。
よくある質問
Q. 「どこで止まった?」と聞いても答えないときはどうすればいいですか?
A. 言葉で答えるのが難しい場合は、指さしやしぐさで示してもらうのもひとつの方法です。気持ちが落ち着いていないときは、少し時間をおいてから聞いてみるとよい場合があります。
Q. デバッグという言葉は、子どもに伝えた方がいいですか?
A. 言葉そのものを教える必要はないと考えています。「間違いの場所を探して直す」という考え方が伝われば十分です。プログラミングに興味がある子なら、言葉を紹介するのも楽しいかもしれません。
Q. すぐに答えを教えてしまうのはよくないのでしょうか?
A. 状況によると考えられます。ただ、自分で次の一手を見つける経験を重ねるためには、答えそのものより「手がかり」を渡す方が役立つことがあると言われています。
Q. 大人の仕事や勉強にも使える考え方ですか?
A. 使えると感じています。うまくいかないときに「全部だめだった」ではなく「どこまでは合っていたか」を確かめると、次にやることが見えやすくなることがあります。
参考・引用元
- 実行機能(脳科学辞典/日本神経科学学会)
- Executive Function(Harvard University Center on the Developing Child、英語)
- シーモア・パパート『マインドストーム』(未来社)国立国会図書館サーチ
- Debugging as a context for fostering reflection on critical thinking and emotion – University of Minnesota
- 小学校プログラミング教育の手引 – 文部科学省
- Wood, D., Bruner, J. S., & Ross, G. (1976). The role of tutoring in problem solving. Journal of Child Psychology and Psychiatry.
